ローズ(11)
浴室から出ると、脱衣かごの上にピンク色の婦人下着が見えた。用意されていたバスタオルで体を拭きながらそれを見た。
ピンク色のブラジャーとショーツ、そして丈の短い同色のスリップが用意されていた。正明の脱いだものはどこにもない。佳織が持って出てしまったのだ。正明は言葉を失った。
この二階の部屋に入ってから、目の前で佳織が下着姿になったり、佳織の汗の匂いの染みついたTシャツを嗅いだり、浴室で佳織の使ったナイロンタオルに青春のエネルギーをぶつけたりと、正明の「男子」の部分が妙に刺激されていたのだが、このピンク色の婦人下着を見て、今日自分が何をしにここに来たかを正明は思い出した。そして、それまでとはまったく違った感情が正明の心の中でうごめきだしたのだった。
二年前の秋、この二階の部屋で女の子の姿にされて、その姿を鏡で見てからと言うもの、その思いもよらない可憐な自分自身の姿は正明の心から決して離れていかなかった。そして、ほんの短い間だったけれど佳織とここで二人きりになり、佳織に抱きすくめられてくちづけを交わしたことも、決して忘れることのできない出来事だ。正明がオナニーをするときは、必ずこのどちらかを思い浮かべていた。
今日ここに来る前、またあの姿になれると思うと気がはやって仕方がなかった。佳織がそれをもう一度見たいと言ってくれているのがなぜだか嬉しかった。正明はずっと佳織のことをほのかに想っていたのだった。その佳織から女装姿を楽しみにされているのは、男子としては不本意なことなのかも知れないが、正明自身が「もう一度…」と望んでいたのだから嬉しくもなるのだろう。女の子の姿になって、佳織から抱きすくめられて身を任せたあの感覚が、鮮やかに蘇ってきた。
「西村君」
ドアの向こうから呼ぶ声に正明は驚いて、背筋を伸ばした。
「着替えた?」
「え、ま、まだやけど」
「ちゃんと着替えてね、それに」
「あの、でもこれ、全部女ものやんか」
「ええやん」
「恥ずかしいわ」
「ええの。誰にも言わへんから。わたし達だけの秘密にしてあげるから、ちゃんとそれに着替えて!」
「…… うん ……」
わたし達だけの秘密と言われて、正明の心が動いた。正明は、その可愛いピンク色の婦人下着、レースもあしらわれた「女もの」を手に取った。正明は勃起していた。ショーツを穿きブラジャーを着けた。ブラジャーには、パッドがもう仕込まれていて、少し控えめなふくらみを作っている。そして、ピンク色のスリップを着た。裾がすとんと下まで落ちて、正明の太股の付け根が隠された。スリップの薄い布の下では、正明の男子のシンボルがはち切れそうになっている。正明は、バスタオルを腰に巻いて居間へと出ていった。
「あははは!」
女もののスリップと、その下にブラジャーの肩ひもを見せ、パッドによる膨らみを見せながら、下半身にバスタオルを巻いて出てきた正明を見て、佳織は可笑しそうに笑った。
「笑うなよ〜」
「ごめんごめん! やっぱり、恥ずかしい?」
「当たり前やん!」
「うふふふ、でも可愛い〜」
中肉中背と華奢の中間ぐらいの体格の正明は、下着姿もほっそりとしていて女っぽく見える。顔付きは今でも女顔で通るので、ちょっと見ただけでは見間違うかも知れないと佳織は言った。
「そしたら、まずブローからね」
佳織は正明を丸い椅子に座らせるとドライヤーを手に取った。正明が髪まで濡らしてきたので、まずは髪を乾かすのだ。
「わたし、もうじき美容師の学校行くから、家で練習とかしてるのよ」
佳織はそう言うと、慣れた手つきで正明の髪をブローしてくれた。今でも、男女両方から人気のある寺原佳織に、手ずからブローして貰えた男子生徒はおそらく誰もいないだろう、と正明はすこし誇らしい気がした。
佳織はキャミソール型のブルーのワンピースを着ている。とても女らしい身体の線だと思った。腕も腋の下も剥き出しで、正明は佳織の綺麗に何もない真っ白い腋の下をちらちらと見ていた。
ブローが終わった。
「わたしと髪の長さ同じぐらいやね」と、佳織は笑った。そう言えば、二人ともほとんど同じような髪型をしている。
「寺原、今までだれか友達の髪の毛とかカットしたり今みたいにブローしたことあるん?」
と正明は聞いた。
「ううん、まだまだ修行以前の身やから、誰にも…… 西村君が初めてよ」
「そうかあ、ぼくが一番乗りか。なんか、嬉しいな」
佳織はその言葉を聞いて、ぱっと華やいだ笑顔を見せた。
「先にお洋服着ましょ、それからお化粧ね」
佳織は正明のために用意しておいた服を見せた。
藤色の半袖のワンピース。裾に白いレースがあしらわれている、とてもフェミニンなワンピースだ。
「これ、寺原の服?」
「うん、滅多に着ないの。よそ行きやから」
「そんなん着たら悪いやん」
「そんなことないわ。久しぶりに真琴に会うんやもん」
佳織はそのワンピースを手に取り、背中のジッパーを開き、正明の足下に開いて差し出した。
「上から被ってもええんやけど」
正明は腰に巻いたタオルを取り、おそるおそるそのワンピースに脚を入れた。左脚、そして右脚。そして、佳織がワンピースを正明の腰の上あたりまで上げた。正明は佳織に促されて、両腕をワンピースの袖に通した。藤色のワンピースの肩が、正明の肩に合わさった。制服のブレザーの時と同様、少しきつめに感じたがサイズはほぼぴったりだった。
佳織が正明の背後に回って、背中のジッパーを上げた。ジッパーが上がるにつれて、ワンピースの生地がぴったりと正明の身体にはりつく感じがした。普段経験しない、締め付けられる感じが妙に切ない。
佳織が正面に回って、正明を上から下まで舐めるように見つめた。正明は恥ずかしくなって俯いた。
うふふ。
佳織の笑う声がした。
「あの時も、真琴はすっごく恥じらってた」
「……」
すでに、真琴と呼ばれて、正明は胸がドキドキし始めた。正明も、あの日の真琴に会うのを楽しみにしていたのだ。
真琴が差し出した、ヒールのサンダルを素足に履いた。ヒールのストラップが少しきつい。足の指がぎゅっと集められた感じと、体重が足の指の付け根当たりにかかる感じが新しかった。
「髪の毛そのままでも女でいけそうよ」
佳織が言った。
「でも、ちゃんとカツラも用意してるからね」
それから、佳織は正明の髪の毛をネットにまとめ、正明の顔に化粧を施し始めた。顔のむだ毛を剃り、睫毛を巻き、眉毛の端の方を少しだけ刈り込み、それからクレンジングクリームで汚れを落とし、化粧水を使い、下地を作った。とても丁寧に作業が進んだ。
そして、ペンシルでアイラインを引き、マスカラをつけ、口紅を塗った。
「もっと、濃いお化粧もできるけど、真琴にはこんな感じがいちばんやと思うわ」
佳織はそう言いながら、正明の頭にこの前に使ったのとは少し違った感じのボブのウィッグをかぶせた。前髪が薄いのだ。横わけのボブで、額に垂らす前髪はごく薄くなっているものだった。佳織は、その前髪を丁寧に整えると、正明を立たせ、その前にキャスター付きの姿見を引いてきた。
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ピンク色のブラジャーとショーツ、そして丈の短い同色のスリップが用意されていた。正明の脱いだものはどこにもない。佳織が持って出てしまったのだ。正明は言葉を失った。
この二階の部屋に入ってから、目の前で佳織が下着姿になったり、佳織の汗の匂いの染みついたTシャツを嗅いだり、浴室で佳織の使ったナイロンタオルに青春のエネルギーをぶつけたりと、正明の「男子」の部分が妙に刺激されていたのだが、このピンク色の婦人下着を見て、今日自分が何をしにここに来たかを正明は思い出した。そして、それまでとはまったく違った感情が正明の心の中でうごめきだしたのだった。
二年前の秋、この二階の部屋で女の子の姿にされて、その姿を鏡で見てからと言うもの、その思いもよらない可憐な自分自身の姿は正明の心から決して離れていかなかった。そして、ほんの短い間だったけれど佳織とここで二人きりになり、佳織に抱きすくめられてくちづけを交わしたことも、決して忘れることのできない出来事だ。正明がオナニーをするときは、必ずこのどちらかを思い浮かべていた。
今日ここに来る前、またあの姿になれると思うと気がはやって仕方がなかった。佳織がそれをもう一度見たいと言ってくれているのがなぜだか嬉しかった。正明はずっと佳織のことをほのかに想っていたのだった。その佳織から女装姿を楽しみにされているのは、男子としては不本意なことなのかも知れないが、正明自身が「もう一度…」と望んでいたのだから嬉しくもなるのだろう。女の子の姿になって、佳織から抱きすくめられて身を任せたあの感覚が、鮮やかに蘇ってきた。
「西村君」
ドアの向こうから呼ぶ声に正明は驚いて、背筋を伸ばした。
「着替えた?」
「え、ま、まだやけど」
「ちゃんと着替えてね、それに」
「あの、でもこれ、全部女ものやんか」
「ええやん」
「恥ずかしいわ」
「ええの。誰にも言わへんから。わたし達だけの秘密にしてあげるから、ちゃんとそれに着替えて!」
「…… うん ……」
わたし達だけの秘密と言われて、正明の心が動いた。正明は、その可愛いピンク色の婦人下着、レースもあしらわれた「女もの」を手に取った。正明は勃起していた。ショーツを穿きブラジャーを着けた。ブラジャーには、パッドがもう仕込まれていて、少し控えめなふくらみを作っている。そして、ピンク色のスリップを着た。裾がすとんと下まで落ちて、正明の太股の付け根が隠された。スリップの薄い布の下では、正明の男子のシンボルがはち切れそうになっている。正明は、バスタオルを腰に巻いて居間へと出ていった。
「あははは!」
女もののスリップと、その下にブラジャーの肩ひもを見せ、パッドによる膨らみを見せながら、下半身にバスタオルを巻いて出てきた正明を見て、佳織は可笑しそうに笑った。
「笑うなよ〜」
「ごめんごめん! やっぱり、恥ずかしい?」
「当たり前やん!」
「うふふふ、でも可愛い〜」
中肉中背と華奢の中間ぐらいの体格の正明は、下着姿もほっそりとしていて女っぽく見える。顔付きは今でも女顔で通るので、ちょっと見ただけでは見間違うかも知れないと佳織は言った。
「そしたら、まずブローからね」
佳織は正明を丸い椅子に座らせるとドライヤーを手に取った。正明が髪まで濡らしてきたので、まずは髪を乾かすのだ。
「わたし、もうじき美容師の学校行くから、家で練習とかしてるのよ」
佳織はそう言うと、慣れた手つきで正明の髪をブローしてくれた。今でも、男女両方から人気のある寺原佳織に、手ずからブローして貰えた男子生徒はおそらく誰もいないだろう、と正明はすこし誇らしい気がした。
佳織はキャミソール型のブルーのワンピースを着ている。とても女らしい身体の線だと思った。腕も腋の下も剥き出しで、正明は佳織の綺麗に何もない真っ白い腋の下をちらちらと見ていた。
ブローが終わった。
「わたしと髪の長さ同じぐらいやね」と、佳織は笑った。そう言えば、二人ともほとんど同じような髪型をしている。
「寺原、今までだれか友達の髪の毛とかカットしたり今みたいにブローしたことあるん?」
と正明は聞いた。
「ううん、まだまだ修行以前の身やから、誰にも…… 西村君が初めてよ」
「そうかあ、ぼくが一番乗りか。なんか、嬉しいな」
佳織はその言葉を聞いて、ぱっと華やいだ笑顔を見せた。
「先にお洋服着ましょ、それからお化粧ね」
佳織は正明のために用意しておいた服を見せた。
藤色の半袖のワンピース。裾に白いレースがあしらわれている、とてもフェミニンなワンピースだ。
「これ、寺原の服?」
「うん、滅多に着ないの。よそ行きやから」
「そんなん着たら悪いやん」
「そんなことないわ。久しぶりに真琴に会うんやもん」
佳織はそのワンピースを手に取り、背中のジッパーを開き、正明の足下に開いて差し出した。
「上から被ってもええんやけど」
正明は腰に巻いたタオルを取り、おそるおそるそのワンピースに脚を入れた。左脚、そして右脚。そして、佳織がワンピースを正明の腰の上あたりまで上げた。正明は佳織に促されて、両腕をワンピースの袖に通した。藤色のワンピースの肩が、正明の肩に合わさった。制服のブレザーの時と同様、少しきつめに感じたがサイズはほぼぴったりだった。
佳織が正明の背後に回って、背中のジッパーを上げた。ジッパーが上がるにつれて、ワンピースの生地がぴったりと正明の身体にはりつく感じがした。普段経験しない、締め付けられる感じが妙に切ない。
佳織が正面に回って、正明を上から下まで舐めるように見つめた。正明は恥ずかしくなって俯いた。
うふふ。
佳織の笑う声がした。
「あの時も、真琴はすっごく恥じらってた」
「……」
すでに、真琴と呼ばれて、正明は胸がドキドキし始めた。正明も、あの日の真琴に会うのを楽しみにしていたのだ。
真琴が差し出した、ヒールのサンダルを素足に履いた。ヒールのストラップが少しきつい。足の指がぎゅっと集められた感じと、体重が足の指の付け根当たりにかかる感じが新しかった。
「髪の毛そのままでも女でいけそうよ」
佳織が言った。
「でも、ちゃんとカツラも用意してるからね」
それから、佳織は正明の髪の毛をネットにまとめ、正明の顔に化粧を施し始めた。顔のむだ毛を剃り、睫毛を巻き、眉毛の端の方を少しだけ刈り込み、それからクレンジングクリームで汚れを落とし、化粧水を使い、下地を作った。とても丁寧に作業が進んだ。
そして、ペンシルでアイラインを引き、マスカラをつけ、口紅を塗った。
「もっと、濃いお化粧もできるけど、真琴にはこんな感じがいちばんやと思うわ」
佳織はそう言いながら、正明の頭にこの前に使ったのとは少し違った感じのボブのウィッグをかぶせた。前髪が薄いのだ。横わけのボブで、額に垂らす前髪はごく薄くなっているものだった。佳織は、その前髪を丁寧に整えると、正明を立たせ、その前にキャスター付きの姿見を引いてきた。
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