ローズ(10)

 次の週の月曜日、正明は朝早くから図書館に行くと偽って、美容室テラハラへと自転車を走らせた。テラハラは月曜日が定休日だ。店の入口には、臨時で月曜火曜の二日間休むと張り紙が出ている。店の裏側の広場に自転車で入っていくと、そこには佳織が待っていた。
「来たね」
「うん。ほんまに二連休なんやな」
「うん。講習会やったかなんかがあるとか言うてた。お母さんと、ゆかりさんに京子さんも、三人とも名古屋に一泊してくるねんて」
 見ると、佳織は汗だくになっている。見た目にも少し疲れて見える。
「どないしたん? 汗だくやんか」
 正明は言った、すると佳織はぐったりとして言った。
「上の部屋掃除しててん。そしたらもう、くたくた」
「あ、今人住んでへんから」
「そう、ゆかりさんも京子さんも今はアパート暮らしよ。羨ましいなあ、わたしもアパートでひとり暮らししたいわあ。まあ、来年からは東京でひとり暮らしやけどね」
 元倉庫だったこの建物は、やはり人が住むには不適切だったようで、丁寧にリフォームした階下の店舗はともかく、二階は工事も手抜きでとうとう雨漏りがしたと言うことだ。すきま風もひどくなってきたので、改築するよりも、空いていた土地に安いアパートを建てて女性専用にして貸し出して、その二部屋を美容院の寮として使うことにしたのだという。佳織の母は、なかなかの事業家のようだ。
「埃吸いまくりでのどがいがいがするわ。気持ち悪ぅ〜」
「ジュースでも買うてこよか?」
「あ、飲み物は上にあるからいいよ」
「あ、そうなんや」
「上の冷蔵庫はまだ動いてるの。なんか難しそうな美容液とか入ってるけど、飲み物もあるから。結構重宝して使てるのよ、上の部屋。人が住んでないだけで」
 二人は店の裏側にある通用口から階段ホールへと入り、鉄製の階段をきしませながら二階へと上がっていった。母親と従業員皆が留守の間に店に侵入して二人で遊ぶというのは、ウブな高校生だった正明にとっては、とてもスリリングで、かつ気の咎めるものだった。

 二階の部屋は正明が想像していたよりは綺麗だった。
「もっと散らかってるんかなと思ったけど」
「わたしがお掃除する前は、そうやったのよ」
 佳織はそう言うと、窓を閉めてクーラーのスイッチを入れた。クーラーから埃が吐き出された。佳織は、着ていたTシャツを無造作に脱ぎジーパンも脱ぎ捨てて、ピンク色のブラとショーツだけの姿になった。正明は驚いた、そして慌てて目を逸らした。
「いいのよ、見ても。女同士なんやから」
「な、何言うてんねん!」
 佳織は悪戯っぽく笑うと、脱いだものを脇に蹴飛ばしながら言った。
「ちょっと待っててくれる? 汗かいたからシャワー浴びたいの」
 そして佳織は部屋の隅にある扉を開けて風呂場へと入っていった。正明の目には、目の前で見た佳織の下着姿が鮮やかに焼き付いていた。胸がドキドキして股間が強ばっていた。
 風呂場から聞こえてくるシャワーの水音を聞きながら、正明は部屋の中を何気なく見て回った。高校一年生の時はまだここにはゆかりさんと京子さんという美容院の従業員さんが住んでいて、簡単な応接セットやカラーボックスなどの二人の家具、そしていろんな縫いぐるみやタレントのブロマイドなどが置いてあって、華やかな印象もあったのだが、今はがらんとしている。あの時、寝室だという部屋は覗けなかったけれど、そこには洋服ダンスなどがいっぱいでとても窮屈だとゆかりさんが言っていた。今、こっそりと覗いてみると、まだベッドが置いてあった。シーツも何も掛かっていなかったけれど、古いベッドクッションの上にタオルケットがたたんで置いてあった。時々は誰かが泊まるのかも知れない。
 寝室から居間に戻ると、正明の目にはさっき佳織が脱ぎ捨てていったTシャツとジーパンが目に入った。正明は、おそるおそるTシャツを手に取った。浴室からはまだシャワーの音が聞こえてくる。正明は、佳織の来ていたTシャツを抱きしめて匂いを嗅いでみた。甘酸っぱいような汗の匂いがした。
 シャワーの音が止んだ。正明は慌ててTシャツを元のように無造作に床の上に転がした。風呂場の方から佳織が出てくる音が聞こえた。薄いブルーのキャミソール型のワンピースに着替えていた。髪も洗ったらしく、ショートヘアがみずみずしい光沢を放っていた。
「ねえ、西村君もシャワー浴びて!」
「え、ぼくも?」
「うん、汗かいたでしょ。それに、シャワー浴びてから脱衣場で着替えて欲しいの。この前もブラとかつけたでしょ? 西村君がシャワー浴びてる間に、着替え置いといたげるから」
 この前にここに来たときは、にわか作りの更衣室があったのだ。そこに入って着替えたのだけれど、今日はそれはないので脱衣場で着替えるのが良いだろう。正明は言われるままに脱衣場に入っていった。脱衣場の床にかごが置いてあった。そこに服を脱ぎ入れ浴室に入るとき、二槽式の洗濯機の洗濯槽に佳織の脱いだ下着が入っているのが見えた。
 正明の心臓がどきりと大きく跳ねた。ピンク色のショーツに同じ色のブラが入っている。思わず手を伸ばしかけたがやめた。全裸の正明の股間で、正明の男子のシンボルが何に邪魔されることもなく勢いよく上を向いた。正明は、呼吸を荒げながら浴室に入った。
 浴室は綺麗だった。ここもさっき掃除したのだろうか。いかにも掃除したてですと書いてあるような浴室だった。
 壁際のバーについさっき佳織が使ったに違いないピンクのナイロンタオルが掛かっていた。その横にはまだ濡れていないブルーのナイロンタオルが掛かっている。ここで体を洗って着替えることを予定して、揃えて置いてくれたのかも知れない。
 正明はシャワーのお湯を浴びながら、そのナイロンタオルを手に取ろうとして、一瞬考えて濡れているピンクのナイロンタオルを手に取った。佳織がこれを手にして全身をくまなく洗っているのを想像した。全身の血が一箇所に集まるような感覚があった。正明はそのナイロンタオルを、健気に上を向いている正明の股間のものに被せた。その瞬間、正明の青春のエネルギーが爆ぜて、ピンクのナイロンタオルに迸った。数秒間の甘美な波が正明を酔わせた。そして我に返った正明は慌ててそれをすすぎ、自分用に用意されていたナイロンタオルを濡らして場を繕った。
 浴室のドアの向こうで物音がして、正明は飛び上がるほど驚いた。
「西村君〜、着替えここに置いといたからこれ着て出てきてね!」
 正明は心臓が口から飛び出そうに思いながら、「うん」とだけやっとの事で返事をした。


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西方万里

Author:西方万里
自作の女装小説を掲載しています。完結した「ケイ&薫」シリーズと、連載中の「ダイアナ・スマイルズ・スクール(DSS)」シリーズを中心に、いろんな作品がリンクしたりしなかったり…… メインの「DSSシリーズ」以外の作品も随時アップします。小説としてのグレードが上がったらいいなあ… と思いながら書いています。お楽しみくださいね♪


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